清田悠代さん 私って大切? 病気や障がいがある兄弟姉妹の「きょうだい児」が抱える苦悩


大阪で小児がんや心臓病などの重い病気をもつ子どもの「きょうだい児」のサポートをしているNPO法人しぶたね。代表を務める清田悠代氏は、自身もきょうだい児として育った経験から、2003年にしぶたねを立ち上げ、きょうだい児のためのワークショップや、きょうだい支援の応援団・シブリングサポーターを増やしてつなげるための研修ワークショップを開催している。さらに、たねまき活動として、寄稿や講演などを行い、きょうだい児を社会で見守るための土台作りをすすめている。2019年には4月10日を「きょうだいの日」に制定。きょうだい支援の普及活動を積極的に行っている代表の清田氏と、きょうだい児のためのヒーローであるシブレッドに話を伺った。

[きょうだい児のためのヒーローシブレッドと清田悠代氏(写真右)] 


<きょうだい児の約6割がストレスを抱えている>

「きょうだい児」とは、病気や障がいがある兄弟姉妹のいる子どものことだ。両親は、病気

の兄弟姉妹の治療や病院への付き添い、入院や手術などで兄弟姉妹のケアにかかりっきりに

なってしまうことが多い。


厚⽣労働省が3月に発表した「医療的ケア児者とその家族の生活実態調査」によると、きょう

だい児がストレスを抱えているように感じるという質問に対して、「当てはまる、まあ当て

はまる」と回答した人は全体の59.3%にも上る。きょうだい児からの自由回答欄には「いつ

も、ひとりぼっちか、後回しにされる」「お母さんとゆっくり話したいときに聞いてもらえ

ない」「僕は妹のことでいっぱい我慢している」という切実な声が並ぶ。


前述の調査による父親からの回答には、「他のきょうだい児のための時間が取れないのが悲

しく思う」や、「ちょっとした外出などでも、要所で時間や手間を要すことが多く、外出を

躊躇いがちになり、 下の子どもに我慢させてしまうことが多々ある」というものがある。


母親からは、「きょうだいを公園に連れていってあげたくても、ケア児とともに外で見るの

は難しく、きょうだいともに外で遊ぶということをさせてあげられない」「 両親揃ってきょ

うだい児の学校行事、外出をしてあげられない」という声が上がり、両親ともにきょうだい

のことを常に気にかけてはいるものの、構ってあげることのできない日々に悩みながら過ご

していることがわかる。

[令和2年3月 厚生労働省 医療的ケア児者とその家族の生活実態調査]


<親子の架け橋に>

親もきょうだい児も、本当はお互いのことを思っているにも関わらず、きょうだい児のため

の時間が物理的に作れないことで、徐々に親子間でのすれ違いも生じてくる。清田氏は、親

は自分の気持ちに蓋をして頑張るしかない現状があると指摘する。「入院してる子どもたち

のお母さんが参加する茶話会に行って、お話を聞かせてもらうと、そこで蓋が開いて、わー

っと泣かれることがあります。『家にまだ1歳の子がいるけど、長期入院でずっと離れて、自

分が産んだ実感がもう沸かなくなってきました』と話されるお母さんもいます」。


きょうだい児もまた、一人で悩みを抱えて頑張っている。清田氏はあるエピソードを紹介し

てくれた。「兄弟姉妹の面会中の親を待っているきょうだい児が、机がない病院の廊下で椅

子を机代わりにして宿題をしていました。プリントに答えを書き込んだ時に椅子がふかふか

過ぎて、プリントに何箇所も穴が空いてしまったんです。翌日、プリントを見た学校の先生

からは、『ふざけてるのか』と怒られてしまいました。この子が毎日、どんな思いで家から

病院に通って、廊下で地べたに座って宿題をしているのか。先生はきっと想像もできなかっ

たんだろうなと思って泣いちゃいますよね。先生が事情を知ってさえいれば、『そうか、頑

張ってるんだね』って言ってもらえたのだろうと思います」。


プリントに穴を空けてしまったきょうだい児は、「お母さんに言おうかと迷うけど、言った

ら気にするだろうな」と清田氏に話したという。自分が怒られたことよりも、母親に心配を

かけることを真っ先に気にしてしまうのだ。親は子どもとの絆が切れてしまわないか心配す

る傍らで、子どもは親に迷惑をかけないように、言いたいことを我慢してしまう。


清田氏は、親側の支援として、自分が育てられていないと自信をなくしてしまっている母親

には、「離れてる時も目はかけているし、ちゃんとお母さんの気持ちに包まれて育っている

から大丈夫」と声をかけるのだという。子どもに対しては、その子の安心を第一に考え、一

人ぼっちではないというメッセージを送るようにしている。「子どもとのコミュニケーショ

ンは言語がメインではないと思っています。悩み事を聞く時間もありますが、ただただ、一

緒に遊んで隣に座っているだけで、その子が抱えているものが伝わってくることもありま

す。赤ちゃんの場合は、2時間泣きっぱなしの時もあるんですけど、いろいろなボランティ

アさんに抱っこされて、下ろされる暇もないぐらい愛されていると感じてくれたらいいなと

思っています」。親子それぞれの抱える気持ちにひたすら寄り添いながら、親子をつなぐ糸

が絡まりそうになるのをほぐしていくのもしぶたねの役割となっている。

[病院できょうだいのための場所を提供している]


<きょうだい児のためのヒーロー>

しぶたねにはきょうだい児専用のヒーローがいて、イベントに度々登場する。きょうだい児

のヒーローであるシブレッドは、普段は会社員で、休日に活動する匿名のヒーローだ。清田

氏と同じ大学で社会福祉を学んでいたことから、活動内容に共感し、しぶたねの立ち上げ当

初から一緒に活動している。「僕自身もそうでしたけど、きょうだい児の問題は、福祉を学

んでいる人間でも知らない人が多いです。きょうだい児の辛さを社会が認識していないと、

いつまで経ってもきょうだいたちは孤独だろうなと思いますし、誰にも大事にされてないと

いう思いを持つのは無理もないことだなと思いました」と、活動のきっかけになった思いを

語ってくれた。


シブレッドはイベントに登場して場を盛り上げながら、時にはきょうだい児の相談に乗り、

時には置かれている環境に目を配る。「きょうだい児は、”自分のための”がない中で育ちま

す。病気があったり、障がいがあったりする子の”ため”のものばかりが目に入ってくる環境で

す。きょうだい児のヒーローは”あなたのため”の人や場所を見せてあげることができる存在」

(シブレッド)。自分たちのためのヒーロー、自分たちのための特別な場所と時間があるこ

とで、きょうだい児は自分の居場所を確認することができる。イベントは、きょうだい児が

仲間や応援してくれている大人と出会い、親子でふれあえる場所として、出前も含め年10回

ほど開催されている。

[2019年には4月10日をきょうだいの日に制定した]


<支援へのアクセスをつくるために>

さらに、しぶたねでは、きょうだい児への支援を幅広く行き渡らせるために、「きょうだい

さんのための小冊子」を作り、病院や保健所を中心に配布している。「たいせつなあなた

へ」、「おにいちゃん、おねえちゃん、おとうと、いもうとを亡くしたあなたへ」の2冊だ。

「たいせつなあなたへ」にはこう書かれている。


『お父さんお母さんがあなたのことをいっぱいだいすきなこと。びょういんにいてあなたに

会えないときも、お父さんおさんたちは、あなたのこといつもだいすきなんだよ。あなたが

いるから、いっぱいがんばっておしごとをしたり、おいしいごはんをつくったりできるので

す。あなたのえがおが「元気のかんでんち」なんだね。いま、「ほんとう?」って思った? 

思ったときは聞いてみよう。ぼくってたいせつな子ども?わたしのことだいすき?さあ、だ

れに聞こうかな? なんどでも聞いたらいいんだよ。』


文章は小学校低学年の子どもでも理解できるように、漢字にはふり仮名がふられている。き

ょうだい児が自分ではなかなか伝えることができない気持ちや、誰かから言って欲しかった

ことなどを代弁した言葉が並ぶ。2冊とも、親や周りの人からたくさん愛されているというこ

と、自分自身が大切な家族の一員だという内容が優しい文面で書かれている。現在、2冊合わ

せて7万部が発行されている。


しかし、この冊子でさえ、障がいや病気のケアで手一杯の親にはなかなか到達しにくいとい

う。「あるお母さんが、『保健師さんに渡された時に、きょうだい児のことをもっと見てあ

げてとか、あれもこれもしてあげてと書いてある本だと思って怖くて開けなかったんです』

っておっしゃったんです。それぐらいお母さんは自分のことを自分で責めておられます。そ

のような状態だと、きょうだい支援のイベントのチラシを見ても連れて行こうって思えない

ですよね。『きょうだいを見てあげられていないことは痛いほどわかっているから、きょう

だいの文字を見るだけで泣いてしまう』というお母さんもおられます。私たちは、お母さん

がきょうだいと楽しく過ごすことで充電され、同じ立場の親御さんに出会ってくれたら嬉し

いなと思うのですが、なかなか難しい状況です」(清田氏)。


[2011年9月に発行された「きょうだいさんのための本」]



<きょうだい児のケアは教育現場や医療現場にも必要>


しぶたねではさらに、きょうだい児が通う教育現場できょうだい児が置かれている状況を理

解してもらうための連携シートも作成している。担任の先生や学校に、きょうだい児が不安

や孤独を感じていること、病気の兄弟姉妹の現状、友達へ話すか話さないか等を事細かく知

ってもらうことができる。清田氏は「ようやく特別支援校のPTAの集まりに呼んでもらえるよ

うになってきました。普通校では、きょうだい児自身が自分の置かれている環境を話しづら

いということもあって、担任の先生はきょうだい児が存在するということ自体、イメージが

沸きにくいようです。学校はきょうだいにとってとても大事なところなので、なんとか足が

かりを作っていきたいなと思っています」と教育現場にも積極的にアプローチしていきたい

と話す。家族へ直接的に、または教育現場に、どうしたら広くアクセスできるのか、日々悩

みながら活動を行っている。

米国では、チャイルド・ライフ・スペシャリストという専門職があり、当事者である子ども

やその家族が抱える精神的負担を軽減するという役割を担っている。

日本では感染症対策のため、きょうだい児は小児病棟には入れないが、海外ではきょうだい

児のためのプレイルームがあったり、院内学級にもきょうだい同伴で入れる病院もあったり

するという。清田氏は日本でもケアしてくれる人はいると続ける。「日本は看護師さんも保

育士さんもきょうだい児のことをすごく気にかけてくれています。ただ、業務の範疇ではな

いので、多忙な看護師さんや保育士さんにお任せすることは難しい。支援団体と連携をしや

すい仕組みを作るなど、日本らしいカタチができていけばいいなと思います」。


清田氏によると、しぶたねのようにきょうだい支援を行っている団体は全国で約36団体ある

という。しぶたねでは、きょうだい児の応援団として、シブリングサポーターを増やす活動

を独自に行っている。3年の間に17都道府県で24回の研修を行い、2020年の3月時点で816名

のサポーターが全国にいるという。「ありがたいことにシブリングサポーターの研修を受

け、実際に団体を立ち上げて活動を始めてくれる人が出てきています。各地域のネットワー

クが上手く広がっていくように、つないでいけたらいいなと思っています」。しぶたねの思

いは、支援の輪として確実に全国に広がりつつある。

[きょうだい支援の活動を周知するために講演会も行っている]


<生涯続くきょうだい児の葛藤>

きょうだい児は、成長すればするほど、自分を取り巻く状況を理解できるようになり、親と

の関係が主になる幼少期とは異なる悩みも現れる。思春期になると、病気や障がいのある兄

弟姉妹のことを周囲に話せずに悩み、自分だけが友達と遊んでいてもいいのか、楽しんでい

てもいいのか、葛藤することもある。自分の将来を考える年齢に達した時には、病気や障が

いのある兄弟姉妹の将来を気にかけ過ぎるがゆえに自分の将来を決めかねたり、家を出てい

くタイミングに悩んだりするという。結婚や出産を意識するようになると、別の問題が生じ

る。「結婚する相手に伝えるタイミングや伝え方がとても難しい。子どもを産む時には、遺

伝してしまうかもしれないと悩む人もいます」。さらに、親が寿命を迎え、亡くなった後

は、「病気や障がいのあるきょうだいの面倒を自分がどうやって見ていくのかと悩むので

す」。きょうだいの悩みは形を変えながら、生涯続いていくという。


しぶたねが幼少期にきょうだい支援で関わった子どもたちは、社会人になってもなお、顔を

出したり、悩みを相談したりしてくれているという。成長過程において、長きにわたり悩み

を抱え続けるきょうだい児にはもちろんのこと、大人になってから辛くなってしまった人に

対してもサポートの手を差し伸べる。「『大人になって、病院の廊下に行くと涙が止まらな

くなって、初めてあの時の辛さに気づきました』と大学生くらいになってようやく話すこと

ができるきょうだい児もいます」。成長過程では抑えてきた辛い気持ちが急に現れるのだと

いう。設立から17年、長年きょうだい児ケアに特化して活動を続けるしぶたねだからこそ、

ずっときょうだい児に寄り添える。

[自分のためだけの特別な時間に喜びを抑えきれないきょうだい児]


<今日も優しさの種をまく>

今後の目標は、「全国どこにでもきょうだい支援がある状況を作ること」だと言う清田氏。

「幼少期を振り返った時に、自分は確かに大切にされたという記憶をどれだけ渡しておける

かが重要だと感じています。一人でも多くのきょうだい児に、優しい思い出をたくさん挟み

込んでいきたいと思っています。そして、きょうだいは一生きょうだい。いつでも、手を出

してくれれば掴みたい気持ちで、活動しています」とほほ笑む。


幼少期から親と離れて過ごすことが多かったり、話を聞いてもらう時間が取れなかったりす

ることで、きょうだい児の寂しさや孤独は募っていく。病気や障がいのある兄弟姉妹が常に

中心の生活で、自分のことを後回しにし、親に対しても本音を話すことができない環境下で

は、自分のことを第一に考えてくれる存在というのは、何よりも大きな心の支えになるので

はないだろうか。きょうだい児のために、しぶたねが蒔き続ける優しさの種は、今日もどこ

かで芽吹いている。

[優しい表情で語る清田氏]


<取材後記:大洞静枝パートナーインタビュアー:取材日2020年6月24日〉


小児がんなどの重い病気では、病院への付き添いなどで家族の生活が一変します。闘病生活

を送る子どもが生活の中心になる中で、きょうだい児は以前とは違う環境で過ごすことへの

葛藤を心に秘めたまま辛さを一人で抱え込んでいることも少なくありません。しかしなが

ら、きょうだい児への支援については学校や家庭などのあらゆるところで見落とされがちで

す。しぶたねのようなきょうだい児のための支援団体の存在の重要性を感じました。

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