難波真紀子さん 子供の発達障害と向き合う‐周りからのサポートを得るためには、親の「伝える力」も重要
自閉症スペクトラムとADHD(注意欠陥多動性障害)の6歳になる息子を育てる2児の母、難
波真紀子さん。長男の将生君は3歳3カ月の時に発達障害の診断を受けました。
方法や
食べるもの、発達障害について勉強する中で「健常で生まれたからといって幸せではない
し、発達障害だからといって不幸ではないということに気づいた」と言います。
周囲の人
に将生君のことを知ってもらうために「将生君の取扱説明書」を自作したり、視覚に訴える
「スケジュール管理表」を作成したりと、工夫を凝らす日々。将生君と明るく向き合う真
紀子さんの子育て方法についてお伺いしました。
<将生君について語る母親の難波真紀子さん。>
〈障がいとわかって腑に落ちた〉
――将生君が発達障害だとわかったのは何歳の時でしょうか?1歳半検診の時に少し言葉が遅いと指摘があり、しばらくは様子見でした。2歳の時に毎月
開催されている育児に困っている母親のための集いで「心配ごとがあるなら市役所に行っ
てみては」と助言を受け、2歳8か月の時に連れて行きました。すぐに療育センターに行き
なさいと言われ、療育センターへ行くと、3歳3カ月で自閉症スペクトラムとADHDと診断
されました。療育は3歳4か月から始めています。
ショックだったけど、ほっとしました。私の育て方が悪いのではなくて、障害だったのだ
と。持って生まれたものなのだと、腑に落ちました。障害があるのなら、やれることをや
っていかないと、と思いました。一方で、一生降ろすことのできない重荷を背負ってしま
ったという実感もありました。朝起きると、健常児になっていないかなと思うことも。で
も、将生のためにやることをやってあげたい。その思いが行ったり来たりする日々です。
〈子どもに合った療育方法を探る〉
――具体的にどのような療育をされているのですか?
発達障害の子は目が悪い子が多いです。将生は自閉症特有の斜視・乱視・遠視・弱視があ
りますが、3歳3カ月まで目が悪いことに気づきませんでした。見えていない状態が長かっ
たので、動いて確認する癖がついています。発達障害児は視力が良いのに、目を上手に使
えていない子も多いそうです。現在、名古屋のオプトメトリスト※1という資格を持つ先生
のところにビジョントレーニングに通っています。日本は視力検査が主ですが、アメリカ
では視機能といって目を上手に使えているかどうかも診てくれます。
将生はハイハイをせずに9カ月で歩き出しました。その時は早く歩いたと嬉しかったけれ
ど、発達障害の子は体の使い方が不器用なので、そのことが起因していたのかもしれませ
ん。ハイハイはすごく大事で、視機能につながる体の感覚を養ってくれます。体のバラン
スが悪く、粗大運動※2が苦手なので、体幹を鍛えるためにバランスボールやはしご、鉄棒
などの運動を個別で教えてもらっています。
※1) アメリカ、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパなど世界45カ国では国家資格とされており、視覚機能のスペシャ
リストとして、視覚機能の改善・リハビリテーションなど、総合的なビジョンケアを行う。
※2) 走る・歩く・泳ぐなどの全身を使った運動
他には、週に1度、ABA(Applied Behavior Analysis:応用行動分析学)セラピストの先生
に自宅へ来てもらっています。できていないことを怒るのではなく、できたことを褒めて
あげることで、良い行動が増えていきます。SST(ソーシャルスキルトレーニング)では
、じゃんけんの方法など、友達との遊び方を学んでいます。
<電車の絵を並べて遊ぶまさきくん>
〈環境を整えるだけで改善することもある〉
――食生活にも気をつけられているのですか?
発達障害は治らないと思っている人も多いけれど、アメリカでは環境や農薬、添加物、予
防接種が原因とも考えられています。
発達障害の子は第二の心臓と言われている腸が乱れていることが多いそうです。乳製品の
カゼインや小麦粉のグルテンは、普通の子が胃でキャッチできるところを、発達障害児は
腸漏れをしてしまうので、それが脳に影響し、発達障害特有の行動を引き起こすともいわ
れています。そのため、グルテンフリー、カゼインフリーに取り組んでいます。牛乳を断
った時は、目が合うようになった気がしました。添加物が入っている食品を食べるのをや
めたら行動が落ち着いたという知り合いもいます。
家には添加物は置かず、なるべく自然のものを食べるようにしています。バターは「ギ
ー」というカゼインフリーのものを使っています。発達障害はアレルギーの子も多く、ア
レルギーを治すと、落ち着いて行動をするようになる子もいるそうです。食品については
、絶対食べてはいけないことにはしていません。友達と遊んだ時は、お菓子交換もします
。
気圧、黄砂にも反応する子もいます。これらの環境要因は避けることはできないけれど、
食品のように、環境を整えてあげるだけで改善することもあるのです。
――将生君が得意なことを教えてください。
耳から入った情報は抜けやすいですが、目で見たものに対しては記憶力がとても優れてい ます。電車が好きで、漢字で駅名をすらすらと書きます。数字も得意で、足し算や引き算 も難なく解きます。時計が頭の中に入っているようで、「今24分なら、次の時間まではあ と36分だね」と一瞬で答えます。
<ピースサインをするまさきくん>
――日常生活で工夫されていることはありますか?
朝の身支度は、紙に書いてあることを一つ達成できたら紙を引いてもらいます。絵が出で
きて楽しめるような仕組みにしています。また、注意する時は、近づいて静かな声でゆっ
くり、簡潔に言うことを心がけています。
<チェック表にシールを貼るまさきくん>
〈本人たちが抱えている問題を探してあげたい〉
――困った経験などはありますか?
幼稚園の年少・年中時に、人の足を触るというこだわりがありました。触ったらダメと注
意すると舐めたり、足で触れたりするようになりました。年長時にはそのこだわりが靴下
を触ることに変わりました。その次は「靴下に何がついている?」と柄を聞くようになり
ました。特にフリフリが好きでじっと見ています。友達だけではなく、お母さん方にも「
靴下に何がついているの?」と聞いて回り、理解してもらえないことも。そんな時は「な
ぜ恥をかかせるの?」と、どうしても世間体を気にしてしまいます。自分のことを、どち
らかというと社会性がある人間だと思っているので、その部分が欠けている息子に苛立つ
こともあります。そこは自分が成長できていないところだなと思っています。
育てにくいと思ってしまうけれど、実は上手く表現できない彼らの方が困っていることが
多いです。表面に見える問題より、その下に隠れた本人たちが抱えている問題を探してあ
げる必要があると思っています。
〈子どものことを周りに説明できる親になることが大切〉
――周りの方からのサポートはありますか?
まずお母さん自身が勉強をして、障害を受け入れてあげないと療育やサポートも受けられ
ないし、スタートが切れません。
小学校入学に合わせて「取扱説明書」を作りました。できること、こだわり、指示の方法
などについて書いています。数字が好きなので、次の行動を促すときに「〇分になったら
やめようね」と時計を見せたり、「10数えたらやめようね」とカウントしたりするとわか
りやすいようです。先生が知らないこともたくさんあるので、任せきりにするのではなく
、常に2人3脚の気持ちです。親も勉強して子供のことを説明できた方がいいし、努力する
必要があると思っています。
<まさきくんサポートブック(取り扱い説明書)の一部抜粋>
――先生方以外にも発達障害のことを伝えられているのでしょうか?
初めて小学校で自己紹介があった時に、「靴下にとてもこだわりがあって、友達は大好き
だけど、距離が近すぎてしまう子です。何か問題があったら言ってください」と言いまし
た。
「強いね」って言われることが多いけれど、どちらかというと打たれ弱いです。最初に言
っておくのと、そうでないのとでは対処方法が変わってきます。母親にもタイプがあり、
言えない人もいると思います。私は、宅急便の配達員にも言うので、それは母に止められ
ます(笑)周りにもっと知識が広まったらいいなと思います。
<まさきの描いた絵>
――発達障害の人が暮らしやすい社会とはどのような社会でしょうか?
グレーゾーンを含めると、発達障害の子は増えています。日本はどうしても横並び社会で
、「普通が一番」という空気があります。アメリカは、自閉症の人ばかりを雇う企業もあ
るように、いいところを認めて伸ばしていくという考え方です。日本もそうなって欲しい
なと思っています。
現在、支援センターからの紹介で、同じ発達障害で悩むお母さんからの相談をボランティ
アで受けています。一人で抱え込まずに、いろいろな人を巻き込んで一緒に育てましょう
とアドバイスをしています。
<「まさきには自分を好きであって欲しい。自分の強みを見つけて、それを活かして歩んでくれたらいいですね。」>
(取材後記:大洞静枝)
インタビュー中、終始はきはきとした口調で答えてくださった真紀子さん。将生君のいいところを伺うと 「絵が上手」、「数字に強い」、「イケメンだ」と矢継ぎ早に、とびきりの笑顔で自慢してくれました。 子育てに対するポジティブな姿勢や考え方は、母親なら誰しもが参考にしたい心持ちだと感じました。い つも前向きな気持ちが、将生君の周りにいる人を巻き込む力へと変えているのでしょう。真紀子さんが懸 命に発達障害と向き合う姿は、今後の将生君にとっての大切な道しるべとなっていくはずです。 最後に、「母親が自分の人生を生きることも大切」と、今後は語学の資格を生かしながら、発達障害の子 育てで悩んでいるお母さんの力になれるような仕事に就きたいと語ってくれました。
なんば・まきこ
1977年生まれ。自閉症スペクトラムとADHDの6歳になる息子を育てる2児の母。高校・大
学をアメリカで過ごし、帰国後は秘書・通訳ガイドの仕事に就く。子どものための英語サ
ークル主催や発達障害サークルのサポーターを務めている。
0コメント